2-3-2 美術館大学 記録 (2017年)

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  • ●第37回美術館大学 「秋山孝の神秘『パラダイム』について1」
  • ●第38回美術館大学 「秋山孝の神秘『パラダイム』について2」
  • ●第39回美術館大学 「ランドスケープ・ストーリーズ」「建築における『パラダイム』について」
  • ●第40回美術館大学 「日本ブックデザイン賞2017について」

  • 第40回美術館大学

    • 日  時:2017年 11月 4日(土)pm3:00-4:30
    • 場  所:秋山孝ポスター美術館長岡
    • 講  師:秋山孝、高橋庸平
    • 題  目:「日本ブックデザイン賞2017について」
    • 参加者数:49名

        2017年度、秋山孝ポスター美術館長岡(APM)主催のコンペティションである「日本ブックデザイン賞(JBD)2017」を開催した。2017年度より新設された部門もあり、年々進化している。JBD2017では、応募総数552点(一般の部139点、学生の部413点)の作品が集まった。展覧会ではその中から、厳正な審査を経て選出された252点の入賞・入選作品をAPMとAPM・蔵の2ヶ所で展示した。第40回美術館大学ではJBD2017について、審査委員長を務めた秋山孝館長と、一般の部ブックジャケット・四六判部門で北越紀州製紙株式会社賞を受賞した高橋庸平氏から話を伺った。
    秋山館長は高橋氏に今回3回目を迎えたJBDの特徴は何だと考えるかと質問した。高橋氏は、セルフパブリッシング部門にあると答えた。セルフパブリッシングとは、企画・編集・制作の工程を自ら行った自己出版の本であり、「自ら働きかけるところの強い部門である」と高橋氏は語った。ブックデザインの歴史上、アーティストが本のデザイン全体を行うことは多々あることだが、他のコンペティションではこのセルフパブリッシング部門に当たるものを見かけない。むしろ既に出版され市場に流通しているもの(JBDでは「パブリッシング部門」に相当)を審査することが多いという。そういったことからも、作品自体の魅力という点からも、セルフパブリッシング部門はJBDが誇る特徴であると高橋氏は語った。
    次に秋山館長は、高橋氏が個人的に一番評価の高い作品はどれかと尋ねた。高橋氏は少々考えた後、JBD2017グランプリを受賞した上清涼太氏の「戦争と平和」をあげた。写真の使い方、文字のデザインなどがセンスよく、何より抽象的な表現にもかかわらず、作品のストーリーを感じさせるというのはすごい、と感想を述べた。トルストイの作品は難解とされており、この「戦争と平和」でも階級の違いや国の違いなど、様々な問題が混じりあって書かれている、そういった「うじうじしたもの」が上清氏の作品の鉛色の空に表れていると、高橋氏は続けた。
    最後に秋山館長はJBDを続けていく上で、反省点を洗い出し次回にどう改良していくかが最も大切なことであると述べた。確かにJBDは初回の2015年から、2016年にはパブリッシング部門の追加、2017年には装画部門の新設と、毎回改良を重ねている。応募のためのルールを記した応募要項や、必要事項を記入するエントリーシートも前回の課題をふまえた様式となっている。Webサイトに掲載された受賞者コメントのページも、更に魅力的なコンテンツとなるようにと設けられた。そのように一点一点改良を続けることで、JBDは更に魅力的な、唯一のコンペティションとなることができるのだと感じた。(森山奈帆・APM職員)



    第39回美術館大学

    • 日  時:2017年 8月 4日(金)pm1:50-5:00
    • 場  所:秋山孝ポスター美術館長岡
    • 講  師:第1部 上野裕治, 第2部 高田清太郎、高田清之介、秋山孝
    • 題  目:第1部「ランドスケープ・ストーリーズ」、第2部「建築における『パラダイム』について」
    • 参加者数:91名


     【第1部】
    2017年8月4日(金)、秋山孝ポスター美術館長岡(APM)展示室において、第39回美術館大学を開催した。2013年以来、4年ぶりに二部制での開催である。第一部を長岡市地域振興戦略部・地域づくりアドバイザーであり、元長岡造形大学建築・環境デザイン学科教授の上野裕治氏に、第二部を㈱高田建築事務所・取締役会長の高田清太郎氏、同代表取締役社長の高田清之介氏、APM館長であり多摩美術大学教授の秋山孝氏の3氏に務めていただいた。
    第一部の上野氏は「ランドスケープ・ストーリーズ」と題して、自身の取り組んだプロジェクトを例題に、「パラダイム」とからめて講演した。プロジェクトでは農村におけるイノベーションを考えた。イノベーションは「技術革新」と訳されることが多いが、本来的には「価値基準の変革」という意味である。パラダイムという言葉が使われる「パラダイムシフト(注1)」と共通するところのある言葉である。
    上野氏は、長岡市内で3つのプロジェクトを展開している。1つ目は三島地域の「竹あかり」、2つ目は蓬平地域の「雪あかり」、3つ目は比礼地域の「かかしプロジェクト」である。三島の竹あかりでは、竹を斜めに切断し、その中にろうそくの灯りを灯す。毎年10月に行われ、25,000個もの竹灯りが並ぶ。竹の節部分を切断し、節に2つの穴をあけるのが三島の竹あかりの特徴だが、その一手間で灯りが笑顔に見えるから不思議だ。蓬平の雪あかりは2月下旬から3月上旬の開催で、地域の神社及びその周辺をろうそくの灯りで彩る。雪だるまを制作したり、賽の神を行ったりもする。蓬平は温泉で有名な地域であるが2、3月は寒さも厳しく、雪に閉ざされる。その中で地域に住む人々を元気にするイベントとして開催されている。
    比礼の「かかしプロジェクト」の話では、かかしとは何か、というところからスタートした。古くは古事記にも登場し、日本においては少なくとも700年代にはかかしが存在していたと考えられるという。かかしには、①鳥を追い払う、②人に見せかける、③田の神としての存在、の役割がある。しかし現代において、かかしの存在意義は少々変わってきている。農業従事者、稲作面積の減少により、かかしの設置も限定的になってきた。上野氏がかかし設置者と話していたとき、かかしの存在について話が及ぶと、「なんだかホッとする」という意見が出たという。このことから、現代におけるかかしの役割とは「農民の友」であるということが大きいと考えた。その農民の友かかしを制作し、プレゼンテーションし、コンテストで品評するのが比礼の「かかしプロジェクト」である。
    以上3つの事例に共通するのは、いつもの風景にある刺激を加えることで変化する一瞬の風景を楽しむことである。また、展示作品のデザインは抽象化し、ストーリー性を持たせることを重視した。竹あかりの笑顔にしろ、雪あかりの雪だるまにしろ、デザインはシンプルでストーリーを投影しやすい。雪だるま2つが寄り添っていたら、見る人は雪だるまを親子と見たり、恋人と見たり、自由に想像できる。それが重要なのだという。かかしコンテストのプレゼンテーションもストーリーのある作品が高評価を得られやすいという。
    こうした農村の機能は、生産地であることがそのひとつである。しかし、生産地としての農村の多くは農業従事者や農地の減少により既に破綻している。その対策として考えられることは3つあると上野氏は語る。1つは米の単価を上げること。米の単価が上がれば、農業で生活を成り立たせることができる。2つ目は直接支払い制度の導入。日本は価格支持、つまり関税を課すことで高い国内価格を維持している。これを農家に対して補助金を払うことで農家の所得を維持する直接支払い制度に移行することで、日本の農業は守られるのではないか。3つ目はライフスタイルを変換することである。例えば食料の半分を自給自足する、半日農業に従事し、半日会社員として勤めるなど、農業+αの考え方を持つことである。定年後は田舎で暮らしたいという夢を持っている人は多いだろう。そういった人々を呼びよせ、農地や空き家、耕作機械等も貸し、稲作も教える代わりに、農業の担い手として農村を守ってもらう。こうしたイノベーション、パラダイムシフトを考える時期に来ているのではないかと上野氏は訴えた。 (森山奈帆・APM職員)

    【第2部】
    2017年8月4日に開催した第39回美術館大学は二部構成で行った。第二部は開催中の企画展「秋山孝の神秘3『パラダイム』」を受け、「建築における『パラダイム』について」をテーマに、秋山孝ポスター美術館長岡(APM)サポーターズ倶楽部法人会員の株式会社高田建築事務所の高田清太郎代表取締役会長と高田清之介代表取締役社長が講師を務め、進行は秋山孝館長が担当した。
    講演は3本の軸からの考察で構成されていた。「時間軸」「環境軸」「言葉軸」の3本である。
    まずは、「時間軸」。第37、38回美術館大学で秋山館長が自身の創作活動におけるパラダイム(枠組)を語る上で、過去の美術表現の歴史を振り返る事を重点的に行ったが、建築におけるパラダイムを考える上でもそれは重要で、高田社長が過去の事例を紹介しながら、時代の中での建築のパラダイムシフト(注)について説明した。「変化の直前に身を置かなければその変化に気がつかない」という高田社長の冒頭の言葉がとても印象的であった。物事を学んだり、考える上でその過去を振り返ることはとても重要なのである。
    建築の歴史の上で重要なポイントとなったのが「産業革命」であった。それ以前は石を中心とした積む構造が主流であったが、産業革命による機械化で、作業スピードのアップやコストダウンなどが進んだ。また、鉄という素材の著しい発展により、建築構造が大幅に変化した。膨張率が一緒だという鉄とコンクリートの奇跡的な組み合わせがそれをより発展させたといえよう。その後、フランク・ロイド・ライト(アメリカ)、ワルター・グロピウス(ドイツ)、ミース・ファン・デル・ローエ(ドイツ)、ル・コルビュジエ(フランス)といった建築界の4大巨匠を中心に建築の様式、考え方などのパラダイムシフトが展開されていき、現在に至る。
    建築の歴史は社会技術の発展と共にある。それは現在進行形である。一番旬な話題としては、3Dプリンターの誕生ではないだろうか。これにより一軒家がわずか24時間で、さらに破格の値段でつくることができるところまで技術はきた。日々刻々と新しい技術が生み出される中で、また、人々の価値観、生活様式が変化する中で、どのような考え方でどのような建築をつくるのか、建築家に課せられる課題は尽きることがない。
    建築のパラダイムシフトの歴史を振り返った上で、続いて高田会長が高田建築事務所が掲げるパラダイムについて「環境軸」と「言葉軸」の2点から語った。独自の考え方を元に個性的で魅力的な建築を生み出し続ける同社の独自のパラダイムが垣間見えた。
    まず高田会長は「住まい方を提案するのが建築家である」と考える。この考え方の元、高田会長は建築を、いや、人々の住まいを作り続けてきた。さらに、紀元前に活動した建築家ヴィトルヴィウスは「建築は強・用・美の総合芸術である」と建築観を提唱したが、高田会長はこの3つの大切な要素にさらに「COST(コスト)」と「CONCEPT(コンセプト)」の2つの要素(2C要素)が重要であると考える。それにより「おもしろさ」「たのしさ」が建築に加わる。この2C要素こそが高田建築事務所の独自性の素なのだ。
    考え方の基本を確認した上で「環境軸」から同社のパラダイムを考える。そのキーワードは「VASIRU=場知る」である。(高田会長は言葉の持つ力を大切に考え、このような独自の造語も得意としている。)文字通り「場(環境)を知る」ことをとても重要としている。建築という概念が生まれる以前の古代から生き物はその風土故の居住を形成し、暮らしてきた。気候風土にあった建築であることが、心地よい暮らしを形成する上でとても重要なのである。同社がある新潟県の風土の特徴といえば、雪が大きい。雪に耐え、また上手く付き合っていけるかどうかが、この地域の建物では重要視される。雪の降る地域と降らない地域の建物では考え方は違ってくる。また、環境という視点では、気候だけでなく周辺の環境からヒントを探し出す場合もあるという。例えば、近所の公園の蓮の葉をモチーフに設計した教会である。さらには、精神病棟の設計には、長期入院を要する人へのケアに配慮した設計をした。その建物の利用状況という点での環境に焦点を当てたケースである。
    次に「言葉軸」である。既述した通り、高田会長は独自の造語を得意としているが、建物にそれぞれ名称をつけている。それは技術的な部分から名付ける場合もあるし、建て主との打合せの内容から名付けられる場合もある。例えば、やじろべえの原理を利用し生み出した耐雪構造を用いた「やじろべえ住宅」、子供にとって楽しい家を作りたいという想いからの「ドラえもん住宅」などである。そのそれぞれの名称が、建築をするにあたってのムーブメントを起こすためのパラダイムとなるという。
    最後に高田建築事務所の思考のパラダイムについて触れた。同社が必要とされる会社になるために必要な事として、「3つの『NE』がい(願い)」を掲げている。「Needs」「Neo」「Necessary」だ。1つ目の「Needs」は客の希望・想いをしっかりと聞き取り、形にすること。これだけでは不十分であり、そこに新たなアイディアを付け加える事が重要だという。それが2つ目の「Neo」である。一度作ったもの(Needs)を少し離れて見てみる、そしてもう1度作る(Neo)。それはすなわちパラダイムシフトである。それができて初めて必要とされる存在になれる(Necessary)という。既存のパラダイムだけで終わらず、さらなるパラダイムを構築し、客の希望以上の答えを出す。この事が高田建築事務所がこれまで発展し、必要とされ続けている理由なのだ。これは建築のみならず、全ての業界に通ずる考え方なのではないだろうか。(たかだみつみ・APM事務局長、学芸員)

    注) 思考や概念、規範や価値観が、枠組みごと移り変わること。



    第38回美術館大学

    • 日  時:2017年 7月 8日(土)pm3:00-4:30
    • 場  所:秋山孝ポスター美術館長岡
    • 講  師:秋山孝
    • 進  行:たかだみつみ
    • 題  目:「秋山孝の神秘『パラダイム』について2」
    • 参加者数:57名

        【表現する枠組】
    秋山の研究領域は美術である。その側面から見るとアートとデザインの2つがあり、アートの「枠組」は「素材」、デザインの「枠組」は「条件」、とそれぞれ別の「枠組」を持っている。さらにデザインにはコミュニケーションツールとして「言葉と図像」「文字と絵」ということを意識することが重要であるという。秋山が自分自身に設定する「枠組」についての研究は、まずは過去の多くのアーティストが生み出してきた「枠組」を理解することから始まる。
    アートの世界から見ていく。光と影の表現を確立したカラバッジョとレンブラント、フォービズム(野獣派)時代のマティスとルオー、抽象画を確立したピカソとブラック。さらに近代になると、それまで絵画は宗教と強い結びつきがあったが、そうではなく、宗教観を除いてもっと純粋に色と形を追求しようという「純粋美術」という考え方が生まれた。その代表的な美術家のパーネット・ニューマン、さらにはそれまでの絵画の枠組壊してみたらどうなるか、ということを提唱したエルズワース・ケリー。
    次にデザインの世界で見ていく。冒頭で提示したとおり、デザインにはコミュニケーションを要する。絵画とデザイン・ポスターは全く違う「枠組」を持ち、「枠組」が違うことによって考え方、目的が違ってくる。伝えるものも変わってくる。講演では24人の画家、イラストレーター、デザイナーを取り上げ、彼らが作ってきた「枠組」を振り返った。秋山自身の「枠組」は、こうした過去に作られてきた「枠組」の理解、研究の連鎖で徐々にできあがってきたのだ。
    では、具体的に秋山孝の「表現の枠組」を見てみる。まずは、「気合いが入っているものはつくりたくない」「自然感が大事である」と語る。また、ビビッドな色彩が特徴であるが、秋山は色には意味があると捉え、色選びにはとてもこだわっている。色数も最小限に留め、時には音が聞こえてくるような表現をしたいと試みている。さらに、作品によっては社会、時代をテーマに作品を制作することも重要としている。
    これらの「枠組」はほんの一部であるが、秋山の作品を見ているとこれらの「枠組」が見えてくるのではないだろうか。見る側が共通の「枠組」を理解すること、それこそが秋山の「個性」として認識され評価されることとなった。正に「物の見方における支配的な認識の枠組」である。
    秋山孝の表現の秘密を解き明かすことを目的とするこの「秋山孝の神秘」シリーズであるが、秋山はなぜ自ら企業秘密を明かすようなことを行うのか。なぜなら、そのような秘密を解き明かすことが学問というものだからである。アーティストであると同時に大学教授である秋山だからこその研究テーマではないだろうか。これも秋山孝の「パラダイム」のひとつである。(たかだみつみ・APM事務局長、学芸員)



    第37回美術館大学

    • 日  時:2017年 5月 13日(土)pm3:00-4:30
    • 場  所:秋山孝ポスター美術館長岡
    • 講  師:秋山孝
    • 進  行:たかだみつみ
    • 題  目:「秋山孝の神秘『パラダイム』について1」
    • 参加者数:71名

        秋山孝の創作の秘密を探るシリーズ「秋山孝の神秘」は今年で3回目となる。今回のテーマは「パラダイム(paradigm)」だ。ここでは、「パラダイム」とは、「物の見方における支配的な認識の枠組」のことを意味し、秋山はこの「枠組」が重要であると考えている。今回の展示タイトルにもサブタイトルがついた。『「考える枠組」と「表現する枠組」』だ。美術館大学では、5月13日(土)と7月8日(土)の回に分けてそれぞれの「枠組」について秋山が語った。
    【考えるための枠組】
    世界は多くの「枠組」の上に成り立っている。その基本的なものの1つに図形がある。「正多角形」や「正多面体」もそれぞれに決まった「枠組」を持つ。正多角体は、全ての辺の長さが等しく、全ての内角の大きさが等しい多角形のことを指す。そこには正円を接して並べることによって形成されている形が見えてくる。正多面体、全ての面が合同な正多角形からなり、各頂点に集まる辺の数が全て等しい形をいう。紀元前3世紀にユークリッドが正多面体が5種類しか存在しないことを証明した。その「枠組」から、プラトンはものの根源的な形は正多面体であることを提唱した。このように「枠組」の連鎖で物事の思考を発展させていくのだ。他にも私たちの身の回りに溢れる「枠組」の例として「黄金比」と「白銀比」、「√比率」を取り上げた。
    さらにスポーツを例に挙げて秋山は説明する。スポーツも種類ごとに「枠組」を持つ。それはルールはもちろんのこと、競技をする場(サッカーではフィールド、ボクシングではリング)にも細部にまで決まりが定められている。それらの共通認識=「枠組」の中で戦いが繰り広げられることで、私たちは熱狂し、楽しむことができるのだ。中でも日本の国技である相撲の「枠組」は魅力的だと秋山は熱く語る。相撲の枠組には日本独自の知的な考え方、心がある。故に「神聖」なのだ。全てのスポーツには「枠組」が存在するが、その「枠組」を壊してしまったものがプロレスである。スポーツとしての「枠組」は壊してしまったが、同時にプロレス独自の「枠組」を確立した。そこにはスポーツとは別の魅力が存在し、人々はエンターテインメントとしてそれを楽しみ熱狂する。
    今回挙げた例はごく僅かである。この僅かな例の中でも「枠組」の中であればきちんとした答えが導き出せるということを理解することが大切であると秋山は言う。物事は、「枠組」が限られていれば限られているほど魅力的な答えが導き出せる。それは人生にも通ずる。現代は「君の人生は自由だ。何でも好きなことをしなさい。」という環境がよいと捉えられがちだる。しかし、昔のように家業を継ぐのが当たり前で、生まれた時点で進む道が決まっているという状況下の方が優れた自在を育て、素晴らしいものを生み出すと考える。与えられた「枠組」の中でどう答えを出すのかが重要であり、魅力的なのだ。物事はひとつひとつ丁寧に答えを出し、それの積み重ねで作られていくということを忘れてはならないと秋山は力強く訴えかけた。秋山も自分自身に「枠組」を設定しながら作品制作をしている。それはどんな「枠組」であろうか。それは後半の第38回美術館大学へと続く。(たかだみつみ・APM事務局長、学芸員)


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